Column
まちなかの価値を再定義する
座談会開催日:2024年9月
当社代表の後藤太一は、47都道府県の最後となる福井を2018年に初めて訪れ、「再開発とリノベーションは対立しない」というテーマのレクチャーを行った。その後、駅前関係者によるエリアマネジメントの勉強会やリノベーションスクール(Discove:Re FUKUI)に参画していた。2020年に県・市・商工会議所が設立した県都にぎわい創生協議会から「県都グランドデザイン」(GD)の検討を依頼され、本格的にコミット。2022年のGD策定後は市民側に軸足を定め、市民大学「ふくまち大学」の設立と運営、さらには民間有志によるまちづくり会社「PLAY CITY」の設立を支援して参画している。

新山直広(ツギ代表/PLAY CITY理事)

熊野直彦(福井市都市政策部都市整備課主幹)

岩崎正夫(元・まちづくり福井会長)

後藤太一
協議会の設立で動きがスピードアップ
後藤:まずは私と福井、皆さんとの関わりを紹介しつつ、福井のまちづくりについて軽く振り返りましょう。個人的には、47都道府県で最後に訪れたのが福井県でした。「まちづくり福井株式会社」(以下、まち福)の岩崎さんにお声がけいただき講演などで訪問していたら、2020年に「県都にぎわい創生協議会」から依頼を受け、県都グランドデザインの検討などに3年ほど関わりました。2021年に異動されてきた熊野さんと検討の場でご一緒し、新山さんには市民に伝え行動を促すためのグランドデザインのガイドブックづくりを相談。地方中核市では活動する人を増やしていくことが不可欠と考え、「ふくまち大学」(福井駅周辺を中心に、まちを舞台とした学びの場)の設立を支援。そのうち、岩崎さんがまち福を定年退職されることになり、高野翔さん(福井県立大学 地域経済研究所准教授)が中心となって「一般社団法人PLAY CITY(プレイシティ)」というまちづくり会社を立ち上げ、新山さんと私も理事としてコミットしています。

岩崎:僕がまち福の社長を代わると話したのは2023年でした。
新山:その日のうちにみんなで小料理屋に緊急集合したら、高野翔くん(福井県立大学地域経済研究所准教授。ウェルビーイング学会理事)がずっと泣いていて…。
後藤:そこからPLAY CITYが生まれて、これからの動きに期待がかかっているところです。ただ、2024年3月に北陸新幹線が開業し、結局、岩崎さんは「FUKUMACHI BLOCK(フクマチブロック)」(福井駅前の複合施設)に関わることになりましたね。
岩崎:管理組合が運営をしないと言われたので、ちょうど退職する僕に声がかかって。せっかく400億円もかけた事業だから、もっと役に立つ場所にしたいという思いで引き受けました。
後藤:そしてFUKUMACHI BLOCKにできたまち福所有のスタジオを、PLAY CITYが借りて「PLAYCE(プレイス)」というワークラウンジの運営を始めました。ふくまち大学はそこを拠点に講座を開催するほか、「ふくまちラボ」という実践型プログラムも始めて、発展を図ろうとしています。私から見ると、福井のまちづくり物語はまだまだ完結していません。
さて、北陸新幹線が通り、今後、中部縦貫自動車道も開通して交通が劇的に変わるため、まちなか再生のラストチャンスと捉えて、県と市、商工会議所などでグランドデザインを作りました。FUKUMACHI BLOCKはにぎわい、もともとあった「ONE PARK FESTIVAL(ワンパークフェスティバル)」(福井市中央公園をメインに開催される音楽フェス)や「XSCHOOL」(プロジェクトを創出するデザインの教室)などの動きは年々引き継がれています。この動きを皆さんはどのように受け止めていますか。
岩崎:僕は全てポジティブに捉えています。「県都にぎわい創生協議会」ができて1番感じたのが、スピード感が上がったということです。それまでのまちづくりは、現場からこれに予算をつけてほしい、こんな政策に反映できないかとボトムアップで行政に上げていたのが、反対に上から下りてくる方が多くなりました。にぎわい創生協議会ができて、知事と市長、福井商工会議所の会頭も入ったところで決めて、全部話が下りてくるようになり、ちょっと迷惑な話が混じりつつも、全体としてはスピード感が上がり、やることが一気に進んだと感じています。
後藤:逆に言うと、それまで下りてこなかったんですか。
岩崎:例えば、「ヨリバ」(足羽川アクティビティ拠点)を作る話は、ずっと前から川を使わせてほしいと言っていて、キャンプやカヌーなど官民で実験を繰り返し、トイレや手洗いがないと使いづらいと話を上げながら、市が持っている駐車場を貸してもらえないかと話をしていました。

熊野:あそこは下水道施設の跡地で、福井市企業局の用地なんですが、今でも下水道の重要施設が埋設されているため、なかなか貸す踏ん切りがつかなかったんです。加えて、川をどう活用していくのかという課題があり、まち福が包括的な河川管理者になっているから、イベントならいいけど、拠点を作るとなると次の展開とセットでなければ整備しようという雰囲気にならなくて。いかんせん足羽川は県の管理領域で、管理する側は安全面が気になり、コミュニケーションがうまくいかなかったんです。でも、にぎわい創生協議会で県が前のめりで入ってきて、昨年度、一気に話が進んだといった経緯があります。
後藤:グランドデザイン作成の後、最初に目に見える形になったのがヨリバなんですね。いつできたのでしょうか。
新山:2024年の3月オープンで、僕がロゴやサインまわりをやらせてもらいました。実は僕が仕事で初めて「このプロジェクト、やりたいです」と自ら手を挙げた案件で、岩崎さんに伝えていたら昨年のワーキングに最初から入れてくれました。
後藤:県と市がうまく動くようになり、リーダーシップも出てきて、民間ともうまく連携できた感じなんですね。
岩崎:創生協議会がなかったら、いまだに「あそこ使わせて」「いや、これは企業局の土地だから難しい」みたいな話が繰り返されていたかもしれません。
新山:ヨリバはすごくいい話なのに、県都グランドデザインの文脈であまり語られてないですね。
熊野:グランドデザインの中には明確に書いてないから。にぎわいの創出と書いてあって、拠点が必要だと岩崎さんはずっと言われていたけれど、建物を作るのはお金がかかるので、そこまではっきり書けなかったんです。でも、理想型に近づいてゴールできたと思います。
後藤:ポジティブに捉えれば、緩やかな方向だけ書いてたから、中身は何とでも話し合えば良かったってことですね。
岩崎:にぎわい創生協議会で作成したグランドデザインでは、大きな方向性が示されているので、そこに沿っているかどうかという判断基準でみんなが動けるようになってきました。「川の利用ってここに書いたでしょ」みたいに。
後藤:とてもいい話ですね。
社会実験を重ね、官民で連携して進める
熊野:私が思っているのは、市街地再開発事業などのハード整備を進めているけれど、北陸新幹線に乗って訪れた方が果たしてきれいな建物を見に来るのかというと、そこには人が活動している景色が必要で、空間の活用が非常に重要な要素じゃないかと。「ふくみち」(福井版の歩行者利便増進道路(通称:ほこみち)制度)が大きなターニングポイントだったかもしれません。
後藤:ふくみちは、快適な歩行者空間を創出するための取り組みですね。
熊野:道路の改修も見据えて、2021年に社会実験などを行う中で、プレイヤーとなる方々も発掘、育成しながらやっていく事業でした。社会実験は、まち福に受け皿となっていただき、岩崎さんともご一緒させていただきました。ちょうど福井駅から西に幅広い県道の中央通りを新幹線開通までに改修するミッションが県にあって、その活用方法を市が引き取り、探っていたところで。通常の公共事業は、県と市で領域が全然違うので、連携するのはとてもハードルが高くて。それがにぎわい創生協議会に、中央通りをどうするかというワーキンググループが立ち上がり、社会実験を重ねながら、ハード整備で改修してもらうところまでいきました。創生協議会の存在がすごく大きいと思います。
後藤:ベンチやフードトラックを出してましたね。
熊野:そうです、期間中、人が憩える空間を中央通りに常設し、ベンチの下に間接照明を入れたりしました。役所では整備まで一足飛びにいかないけど、社会実験を積み重ねることで、「やっぱりそれはあった方がいいよね」という流れができました。ふくみちでは官民が連携したり、県と市が連携したり、足羽川のヨリバを作るところも県の河川課が前のめりにやってくれたところもあって。ふくみちで言うと、今、FUKUMACHI BLOCKでも社会実験を繰り返して、にぎわいを作るための道づかいを検討しているところです。
岩崎:構図としては川と一緒で、川も中央通りも県が管理していて、その上を何とかしようとするのが基礎自治体の市で、現場で動くのが民間ですね。
後藤:県と市は、どういう関係ですか。
熊野:原理原則で言うと、まちづくりは基礎自治体の役割で、県はあまりそこに関与しません。市がどんなまちづくりをしたいかを考えて、それを実行するための支援などを市から県に依頼する流れです。ただ、県も北陸新幹線開業を見据えて、駅周辺ににぎわいを創出するというミッションが与えられたので、一緒にやっている感じです。
後藤:皆さんやりたいことは前からあって、それを行政が解釈して受け止めてくれるようになったのは大きな変化ですね。
後藤:福井市中央公園をメインに開催される音楽フェス「ワンパークフェスティバル」は民間発でしたね。
岩崎:そうです、地元で音楽活動をやっている人たちがやりたいという話を持ってこられたので、市の公園課に相談しに行きました。公園という公共空間を有料で貸し切りにするのはダメと却下されると思いきや、意外に「面白そうだから、考えてみましょう。ただお金はかかりますよ」と言われて構えたものの、結局は平米何十円、全体で数万円のみでした。2017年に話を持ってこられてから協議や準備を経て、2019年の夏に1回目が実現しました。
熊野:行政も警察も、実績があると許可までのハードルが結構低くなるんですよ。もともとまち福で駅前電車通りを止めてイベントするときは非常に厳しかったけど、実際に事故なく安全に運営できるという実績があったので、ふくみちの社会実験は比較的厳しくなくて。河川も、まち福がこれまでイベントをしていたので、県もしっかりと運営してくれれば許可しますという流れがある。やはりまち福の活動は大きいですね。
イベントによってクリエイティブ人材が増加
後藤:新山さんは鯖江市から福井市に引っ越して来られましたね。鯖江と福井にはいつから住んでいるのですか。

新山:2009年に鯖江市に来て、福井市に移り住んだのは2020年、子どもが1歳のタイミングです。鯖江ではかなり活動していたので、プライベートは福井でゆっくりしようと引っ越したのですが、結局、こちらでも面白いコミュニティがいろいろ見つかり、今に至っていて。結局どこに住んでも一緒なんですよ(笑)。
後藤:新山さんは再開発やヨリバにも関わっていますね。新山さんのようにデザイナーをはじめクリエイティブな人たちが入ることで、福井市が変わったという手応えがありますか。
新山:福井のクリエイティブ史としては、2015年にゲストハウスのサミーズ、2016年にXSCHOOLが始まったことが結構大きいと思っています。そのあたりから福井市内はもちろん市外も含めて、クリエイティブ人材のつながりがかなりできてきて。その後、2018年に豪雪があり、「できるフェス」をやったのも大きいですね。
後藤:「できるフェス」って何ですか。
新山:福井市は豪雪の対応に50億円かかって、大幅な財政難に陥り、151もの事業が縮小削減されたんです。でも「工夫して、できることをやってみよう」と、高野翔くんの声かけで20代から40代くらいの地元の仲間が集まりました。例えば、学校のプール開放ができなくても、公園に家庭用のプールを持ち寄って子どもの遊び場を作ったり、図書購入費がないから本の交換会をしたり。行政に頼るのではなく、市民活動として自分たちでやれることはやろうというムーブメントを作るのが、できるフェスだったんですよ。これが結構大きな動きでした。
鯖江にはプレイヤーがいて、今もどんどん増えているけど、福井にはプレイヤーが多いイメージはなかった。けれども、XSCHOOLなどいろいろな動きがある中で、プレイヤーがすごく増えていって、翔くんがリーダー的なポジションをずっとやってくれて、腹をくくって2020年に福井県立大学の先生になりました。そのあたりから、「LUFF(ラフ)」(リノベーションによるコワーキング)ができたり、「クラフトブリッジ」(同じくリノベーションによるコワーキング)の運営が変わったりして、気づいたら上の世代からだんだん僕ら世代になっていた。そういうムーブメントができて、かつ、A街区(福井駅前の再開発事業の先行開業部分FUKUMACHI BLOCK)の仮囲いが始まって、そのときもいろんなメンバーと一緒にやって、ふくみちが始まって、自分たち世代感ができました。かつ、ふくまち大学ができてから、さらに1つ下の世代が現れるようになりました。
後藤:昔から福井市にクリエイティブ人材がいたのでしょうか。
新山:少なかったと思います。でも、XSCHOOLや「福井人」、リノベスクールなどを通して、移住やUターンしたメンバーが徐々に増えていったと感じています。
後藤:では、XSCHOOLをはじめイベントなどで、実は単発ではなくて成果が築かれていっている感じでしょうか。
新山:僕はそう思います。
岩崎:高野くんが福井に関わり出したのは、「福井人」が最初だよね。僕は高野くんの親戚にあたる筧裕介さん(ソーシャルデザインプロジェクト「issue+design」(代表)から「うちの甥っ子が福井のまちづくりをやりたいらしいから、まち福に挨拶に行かせていいですか」と言われたんですよ。それで会ったら、これからの観光は物見遊山じゃなくて、人に会いに行く観光だと、「福井人」を作る話を持ってきました。そして、いろいろな人を巻き込んで動き始めて、まちづくりに関心ある人たちが集まったと思います。
後藤:そういうのが沸き上がりつつあった頃に、私は初めて福井に来て、そこからのつながりで、グランドデザインの検討の支援を始めました。創生協議会の県や市、会議所のような世界と、高野さんのような個人の世界がうまくつながるようになったくらいですね。
岩崎:ちょうど同じタイミングで再開発の話がポツポツと出始めて、それぞれの話を聞くと、結局マンションを建てて商業を入れてと、どこも同じ風景ができあがってしまうのではないか、まち福としてマネジメントする必要あるんじゃないかと思いました。それで、それまでもまちづくりに関して相談に乗っていただいていた内田友紀さん(福井出身の都市デザイナー)に相談して、後藤さんとつながりましたね。
福井のまちづくりのポイントは「人」
後藤:全国エリアマネジメントネットワークでは、まちづくりの話は丸の内や梅田あたりが多いように感じます。対して、福井の岩崎さんと愛知県豊田市の2つが地方都市の雄になっていて。岩崎さんは福井をどう見ていますか。
岩崎:大都市に規模やインフラでは絶対に勝てるはずがないので、福井のまちとして特徴を出したいと思うと、やはり人なのかなと。2012年に担い手づくりプロジェクトというのをやったら、行政の人が土曜の午後に私服で参加してくれて、駅前の商店街の人たちとワイワイ話したんですよ。平日には電車の延伸問題で対立している人たちが、そこではワークショップでああしよう、こうしようと一緒に話している。だから、福井は人が財産としてもっと表に出るべきで、価値があると思ったんです。
後藤:どんな人が表に出ることをイメージされたのでしょうか。
岩崎:僕は、根っこから地元の人がどれだけやる気になってくれるか、まちに関わりたいと本心から思ってくれるか、まずはそのあたりを作りたいと思いました。
後藤:熊野さんは、自分の役所やまちをどう見ていましたか。
熊野:遡ると、私は生まれも育ちも福井で、中学生の頃からずっと駅周辺で遊んでました。今ではシャッター街と言われる新栄商店街も、自分が遊んでいた時代は本当にいいものをプライドを持って買い付けている洋服屋さんなどが結構あって、にぎやかでした。でも、大学生くらいでシャッター街になってしまって…。僕が役所に入ったのは、まちをどうにかしたいという思いが強かったから。そもそも再開発で建物が新しくなっても、他都市と同じようにきれいになるだけです。それを人がどう活用するのかを考えて福井のウリを明確にしつつ、人をうまくつないでいかなければと思っています。
後藤:熊野さんのおっしゃる人は、どんな人ですか。
熊野:商業エリアを担うのは地元のプレイヤーかもしれないけれど、混ざり合うことも必要です。地元を中心にしながらも、多様な人を受け入れる器がないとまちは変わっていかないし、持続的なものにならないと思っています。
後藤:ここで起きている福井の物語は、日本の多くの地方都市にとって希望のケースになってほしいと願っています。新山さんが活動している鯖江は、メガネなどの素材があって、それに関わる人もいて、クリエイティブで入りやすかったと思います。それに比べて、福井はどうですか。
新山:おっしゃる通り、鯖江は生存戦略がシンプルで分かりやすい。小さなまちで、ものづくりにクリエイティブがあればいい。行政と民間もすごく近くて、意思決定したら一気にいけるんですよ。一方、福井市はもう少し大きな都会で、行政が遠いイメージを持っていました。でも、XSCHOOLなどいろいろな試みを積み重ねて、熊野さんにも出会い、行政がそんなに遠くないと僕は感じています。若い人たちも、ふくみちなどでまちに入るハードルが下がったんじゃないかな。
世代の責任として、まちづくり会社を設立
後藤:今度はもっと多様な人が出てくることを志向されていると思います。そこはもうワンステップきっかけが必要とお考えですか。
熊野:もともとグランドデザインを作っているときに議論していたイノベーションセンター的な拠点が、今も大事だと思っています。ふくまち大学やふくみちなどに関わってくれる人はいるけど、ここに行けば誰かがいて相談できるという場所があると、また変わってくるのかなと思っています。
後藤:2024年11月にオープンした福井駅前のワークラウンジ「PLAYCE(プレイス)」はPLAY CITYが運営していますが、そういう場になったらいいなというイメージから始まったのですか。
岩崎:そうです。もとは響の(FUKUMACHI BLOCKの場所にあった、まち福が所有・運営したホール)の権利変換でできた場所で、人がつながり、新しいものを生み出す場所にしたいと思っていました。もう1つ、ちょうど話が出た頃にリノベーションVS再開発みたいな構図があって、どちらも必要だから、リノベーション的な再開発でまちの拠点として位置づけたいという思いもありました。
熊野:あそこで、ふくまち大学のスクールや講座を開催しています。
後藤:私はPLAY CITYの設立をお手伝いし、今では理事に名を連ねていますが、皆さんから見てPLAYCEやPLAY CITYが生まれたきっかけは何だったのでしょう。
新山:僕は県都グランドデザインの最後のほうで冊子づくりに関わり、やはり大事なのは場があって集って、いろんな暮らしや仕事、楽しみがある、いろんな循環を作っていこうという話だと捉えています。その絵はできて、実践する場の候補はいくつかあったと思うんですよ。例えば、駅西の屋内広場「ULO(ウロ)」がライフスタイルやカルチャーの部分を担う一方で、我々のPLAY CITYはコミュニティや学びのような部分を担わなければという責任感がある。理事はみんな仕事をしていて、出資までして、本当に法人として成り立つのかというリスクはあるけれど、じゃあ誰がやるのかといえば、僕らがやらなければという覚悟や責任感が、みんな口には出さないけどあったんじゃないかな。
熊野:スタートは、スタジオ運営委員会で、響のホールの代替機能のスタジオをどうやっていくかで、まち福でやっていくのか、会社を立ち上げてやるかという議論になり、誰かが会社を立ち上げてやらなきゃいけないだろうと盛り上がって、高野さんが代表になって腹を決めてやろうと。
新山:岩崎さんが話を持ってきて、翔くんがいろいろ考えて今のメンバーに声をかけて、どうやって会社を作るかが分からないところに後藤さんたちが入ってくれた感じです。
岩崎:これは決して、ふくまち大学の拠点を作ろうとスタートした話ではないんです。
後藤:新たにゼロイチでやろうと勇気を持てたのはなぜだろう。各自が随意契約でうけるとか、まち福に協力してもらうとか、いろんな選択肢があったはずなのに。
新山:僕は完全に世代の責任感ですね。いろいろな先人たちがやってきたことに対して、我々の世代としてどうしていくかというところで。あと、個人的なモチベーションとしては、今の再開発の計画がすごい素敵だとは正直思えなくて、自分たちでまちを作るぞという運動にしていきたくて。2021年に再開発エリアの仮囲いをデザインしたプロジェクトでは、いろんな人を巻き込んで、自分たちが頑張らなあかんという機運が高まったと思います。
後藤:その世代のメンバーは多いのでしょうか。
新山:現状はだいたい知ったメンバーになっていることに危機感を持っていて、世代を問わず、自分たちでやっていこうというマインドを持った人をもっともっと増やさなければと思っています。
岩崎:前から新山さんや高野くんたちを「チームユージー(UG= Under Ground)」と呼んでいて、まち福がやっているいろいろな仕事について、デザイナー感覚を持った人たちの意見を聞いたり協力してもらったりしています。話を聞いて事業を進めていく中で、少しずつ関わりが増えていったというのはありますね。
後藤:積み重ねがあったのですね。熊野さんはどんな展開を望んでいますか。
熊野:今、ふくまち大学では、いろいろな分野で興味関心のある人に、まちに来てもらうことを目指しています。まちづくりに関心のある人ばかりを集めるのではなく、まずはまちのことを知ってもらい、その中で自分はこれならできる、私はこれがしたいという感覚を持ってもらえる取り組みが必要だと思っています。その先に半歩でも進める場を用意し、最終的にはまちに関わってくれる人のコミュニティを育てていく、その全てが大事であると考えています。一足飛びにプレイヤーになってもらうのは難しいので、ふくまち大学やふくみちなどに関わってもらうことが第一歩ですね。
まちなかでセレンディピティを楽しむ
後藤:福井県民は車への依存度が日本一高く、郊外で裕福に幸せに暮らしています。そのまちなかを活性化するのは、特有の難しさがありそうです。
熊野:行政の立場で言うと、郊外に公共施設が分散しているのは課題ですね。点在しているので車でしか行けないし、そこだけで終わりになってしまう。これからまちの魅力を高めていくには、1つの目的で行った人が、ついでにここに行こうとなることが大切で、本当はまちなかに公共施設を残し、いろいろな魅力あるコンテンツを集めていかないといけないのかなと思っています。例えば、美術館に行って、せっかく来たからと歩いて別のところに行けるように、福井としてきちんと考えていくべきではと思っています。
新山:本当にその通りだと思います。基本的に車社会だったら、郊外型ショッピングモールに目的を持って行きますし、セレンディピティ(思いもよらなかった偶然がもたらす幸運)みたいなことはほぼありません。でも、まちなかのウォーカブルな状態なら、無目的でそんなことが起こり得るというのがポイントだと思っています。今、福井県でそれができるのは、福井市のまちなかしかないでしょう。
後藤:福井県でここだけですか。
熊野:休日に家族で郊外の大型ショッピングセンターに行くのとは違って、まちなかを歩いていたら広場があって休むとか、プラスαで精神的な豊かさを感じられるポテンシャルがまだまだあると感じています。偶然的な発見に価値を見出せるような世の中であってほしいし、フラッといったらうれしい出会いや発見があるようなまちであってほしいと思っています。
後藤:岩崎さんは人が大事を信念として、まちなかでいろいろ活動されてきました。
岩崎:僕は商工会議所に入って、駅前の商店街やイベントなどに長年関わってきました。今の店主のお父さんの時代にいろいろ教えてもらったりして、今でも歩くと声をかけてもらえるので、駅前への思い入れは強いですね。
後藤:駅前の人たちは、郊外化の問題をどう捉えているのでしょう。
岩崎:駅前でお店を持っている人が郊外のお店にも出店して、きちんと稼ぐ仕組みを見てきたので、郊外を否定するつもりはないですね。
後藤:では、郊外とまちなかの対立構造ではなくて、まちなかをどうするイメージでしょうか。
岩崎:昔、オープンエーの馬場正尊さんがリノベと再開発は対立関係じゃなくて補完関係だと言われていて、郊外と中心部も補完関係かもしれないですね。駅前にないものは郊外が持っているし、郊外にないものは駅前が持っているから、きちんと両立させられるのかもしれない。
後藤:生活の場と、農業や製造業などの産業は郊外にありますね。私が最初に驚いたのは、文化施設や大学がまちの真ん中にないことです。文化的な施設を作り直すときに、チャンスがあるのではないかと思っています。
新山:今、進んでいる中心地にアリーナを作る構想が成果を出したら、中心地に文化施設を作る機運が高まるかもしれません。今は県庁があるお城の跡地の活用も大事ですね。
拠点を軸に産学官民で新たな価値を共創
後藤:福井では製造業系の働く場が郊外にあり、まちなかは行政と金融と飲食がメインだとグランドデザインの調査で分かりました。まちなかで仕事を生むためにはどうしたらいいと思いますか。
岩崎:僕はリビングラボ(Living/生活空間とLab/実験室を組み合わせた造語で、産学官民で新たな価値を共創する場所や活動)を実現できればと考えています。PLAYCEは市役所や県庁にも近く、FUKUMACHI BLOCKにはオフィスがあり、27年には駅東の再開発ビルに県立大学の新しい地域政策学部(仮称)ができる予定で、玉がそろいそうです。
後藤:FUKUMACHI BLOCKのオフィスには、地元はもちろん東京の大手も入っていますね。
岩崎:そうなんです、ここで企業と行政、学校の関わりが生まれると、面白いことができるのではないでしょうか。それが400億円を投じて開発した場所の価値ではないかと考えています。加えて、再開発エリアの住民にクリエイティブな人や社会と関わりたい人、経験やいろんなネットワークを持つ人がいれば、まわりを取り込みつつ街区全体とまちとで何かできると考えています。それこそ駅前が次に目指す場で、働く場の創出にもつながるかもしれません。
新山:さらにフリーランス系の人たちが集まれる場所があれば、新しいことが生まれるんじゃないかという期待もあります。
後藤:福井には、フリーランスの人があまりいないのですか。
新山:まだまだ多くないと思います。だって、いまだに銀行と役所に入ることが一番のステータスと親から植えつけられてる人が多いから。
熊野:そうですね、福井にはバラエティに富んだ起業人が生まれなくて、面白い人材やフリーランスを受け入れる土壌がまだ少ないと感じています。
後藤:日本の大多数の地方都市は同じ状況だと思います。これからフリーランスの人や仕事は増えていきそうですか。
熊野:最近、役所の扱う公共領域と、民間がやろうとしている活動の領域が結構重なってきています。役所は役所、民間は民間でやっているけど、官民連携でやったほうがいい仕事ができそうなのに、まだうまく混ざり合ってなくて。そういう部分はこれから絶対に増えてくるし、混ざり合う場が大事だと思います。役所が真面目にいろいろやりすぎて、市民力や市民の活動が育たない面もあるかもしれません。
新山:鯖江市は提案型市民主役事業として、170ほどの事業を市民に渡しています。役所の職員がとても少なくて、市民主役条例もあるので。そういう自治体がどんどん増えてもいいんじゃないかなと思います。
熊野:もともと行政は主役ではなく支援者で、基本的にまちづくりや自治をしていくのは市民なんです。行政は市民と一緒に考えていく座組なのに、なぜか市がやればいいという感じの部分も結構あって。事業をうまく重ね合わせながら、みんなでやれることをやっていくような未来を目指したいですね。
多彩な点がつながり、面として広がっていく
岩崎:僕は駅前の電車通りを将来的にトランジットモール、つまり電車と歩行者だけが通れる道にできないかなと考えています。他のまちとちょっと違う空間を作ると、ユニークな感性を持った人が集まりやすく、まちとしての特徴が際立つと思うので。
後藤:それも場の1つの形ですね。
新山:確かにあの道は車が入らないようにしても機能的に困りませんね。
岩崎:電車だけ通して、車道でのイベントは何度も開催したんですよ。電車が通る横でバーベキューやBMXをして、公共空間の新しい活用方法として、全体で面的につながってくる可能性を感じました。広場のような感覚ですね。
後藤:新たな景色が見えると、それにつられて次の動きも生まれるかもしれませんね。
熊野:面白いですね。振り返ると、にぎわい創生協議会にエリアマネジメント部会があり、その事務局を市が担い、後藤さんが率いるリージョンワークスさんと一番コミュニケーションを取っていました。その際に議論していた、まちなかにイノベーションセンターのようなものを置き、人にフォーカスした取り組みを通して仕事を生み出していくことが非常に大事だと今も考えています。箱物ができて終わりではなくて、誰がどう活用するか、仕事や楽しみをどう生み出すかなど、僕らがやっている事業はとても重要です。リージョンワークスさんに入ってもらい、福井のために問題提起をしてもらったその火を消さないようにと思いながら、日々仕事をしています。

新山:いい話ですね。新幹線が開業して半年経ち、だいぶ落ち着いてきて、まちなかのにぎわいや楽しさは完全に増していると、僕は住民としてとても感じています。福井市にぎわい交流施設のハピテラスが頑張っていて、FUKUMACHI BLOCKと連携しようとか、点が面になっているのはすごくいい動きです。あとはソフト面で言うと、ULOがカルチャーの役割を果たし、PLAYCEがまちを楽しむ人材をどう作っていくかというところから、ふくまち大学との2本立てでどうあるべきか。仕事の視点では、「越乃バレー」というインキュベーション施設が起業家を生む役割を担っていく。そういうカルチャーの部分とまちづくり、そして起業のような仕事の部分がインストールされて、これらがどう花開いていくか、すごく楽しみです。
後藤:そうですね。これからも福井の物語をみんなで紡いでいきましょう。
#プロフィール
岩崎 正夫 いわさき まさお
一般社団法人ふくまちマネジメント 理事
福井県出身。1987年、明治大学商学部商学科卒業。同年福井商工会議所に入所し、主に観光振興、国際交流などに関連する事業に取り組む。2007年と2016年にまちづくり福井に出向。2016年6月まちづくり福井の代表取締役社長に就任。まちのにぎわいづくりと共に、公共空間の利活用事業やまちなかでの文化活動を中心にエリアマネジメントを意識したまちづくり事業に取り組む。音楽フェス「ONE PARK FESTIVAL」には立ち上げ時より携わり、現在はまちづくり福井が事務局を担っている。2023年取締役を退任し会長就任。2024年より現職。
新山 直広 にいやま なおひろ
TSUGI llc. 代表・クリエイティブディレクター
一般社団法人 PLAY CITY 理事
1985年、大阪府生まれ。京都精華大学デザイン学科建築分野卒業。2009年福井県鯖江市に移住。鯖江市役所を経て2015年にTSUGI LLC.を設立。2022年に越前鯖江地域の観光まちづくりを行う一般社団法人SOEを設立。2023年にはこれからの地域とデザインを探究するLIVE DESIGN Schoolを開校するなど、近年ではものづくり・まちづくり・ひとづくりといった領域で活動している。グッドデザイン賞特別賞、国土交通省地域づくり表彰最高賞など受賞多数。2024年度グッドデザイン賞審査員。2023年に一般社団法人 PLAY CITYの設立に参画。
熊野 直彦 くまの なおひこ
福井市 都市政策部都市整備課主幹
1978年、福井県生まれ。大学卒業後、2002年、福井市役所入庁。福井市企業局や農村整備課を経て、生涯学習室や職員課で職員研修や人材育成などの部署を歴任した後、2021年より都市整備課にて県都グランドデザインの取りまとめに尽力。福井版ほこみち制度「ふくみち」や、ふくまち大学の企画運営に中心的に携わり、官民連携によるまちづくりを推進。
年 | 地域の出来事 | Region Worksのやったこと |
---|---|---|
2016 | 事業創造プログラム「X SCHOOL」開始 まちづくり福井「エリアマネジメントセミナー」 | まちづくり福井「エリアマネジメントセミナー」登壇 |
2017 | まちづくり福井の都心再生戦略の検討支援 | |
2018 | まちづくり福井 都心再生戦略の検討 リノベーションスクール「Discover:Re FUKUI」 | リノベーションスクール「Discover:Re FUKUI」登壇 |
2019 | リノベーションスクール「Discover:Re FUKUI」 | まちづくり福井の福井駅前再生戦略の検討支援 リノベーションスクール「Discover:Re FUKUI」登壇 |
2020 | リノベーションスクール「Discover:Re FUKUI」 福井商工会議所 提言「県都再生、ラストチャンス」 県都にぎわい創生協議会 設立 | リノベーションスクール「Discover:Re FUKUI」登壇 県都にぎわい創生協議会「県都グランドデザイン」検討支援 |
2021 | 福井版ほこみち制度「ふくみち」開始 | 県都にぎわい創生協議会「県都グランドデザイン」検討支援 |
2022 | 県都にぎわい創生協議会「県都グランドデザイン」 県都にぎわい創生協議会デザイン推進会議を設置 ふくまち大学準備室「ふくまち大学」 | 県都にぎわい創生協議会「県都グランドデザイン」検討支援 県都グランドデザイン深堀りセミナー登壇 県都グランドデザイン ガイドブックとウェブサイトの作成 ふくまち大学設立および運営支援 |
2023 | ふくまち大学運営委員会「ふくまち大学」開始 一般社団法人PLAY CITY 設立 | ふくまち大学運営支援 |
2024 | 北陸新幹線敦賀延伸(福井開業) 福井駅前再開発「ふくまちブロック」部分開業 ふくまち大学運営委員会「ふくまちラボ」開始 | ふくまち大学運営支援 ふくまちラボ設計および運営支援 |