Column
アジアで最も創造的なビジネス街をつくる
座談会開催日:2024年8月
当社代表の後藤太一は、天神地区のまちづくりに集中するために、2003年に拠点を東京から福岡に移して以降、エリアマネジメント団体「We Love 天神協議会」、地権者協議会「天神明治通り街づくり協議会」、地域戦略の策定から推進までを一貫して行う産学官民一体のThink&Doタンク「福岡地域戦略推進協議会」の設立と活動に携わり、「天神ビッグバン」など国内外から注目される福岡の成長の礎を築いてきた。その過程で協働してきた同士とも言える3人と、その足跡を振り返りつつ未来を展望した。

石丸修平(福岡地域戦略推進協議会事務局長)

野嵜武秀(西日本鉄道執行役員天神開発本部長)

松岡恭子(スピングラス・アーキテクツ代表取締役)

後藤太一
まちのハードだけでなくソフトも議論
後藤:今日はお三方それぞれの視点から、福岡についてざっくばらんに語っていただければと思います。最初のテーマは、福岡の変化をどう見ているか。2005年に福岡県西方沖地震が起こってから、この20年で福岡のポジションは飛躍したと私は感じています。スタートアップと天神ビッグバンは全国で認知され、「札仙広福」から「東名大福」へ、そして海外とのつながりも増えました。
2008年に「天神明治通り街づくり協議会」(通称MDC)が設立され、野嵜さんが事務局長、私が統括マネージャという立場で協働しました。MDCは「天神明治通り地区」の約17haを対象として、老朽建物の機能更新とまちづくりを官民連携で推進する地権者組織で、将来像を「アジアで最も創造的なビジネス街」と掲げました。それ以前は、都市開発のハードの話がメインで、中身の話はあまりなかった気がします。
松岡:私が2015年から5年間、MDCのアドバイザーを務めたとき、この「アジアで最も創造的なビジネス街」をどう解釈して実現するかに心を砕きました。協議会のメンバーに、箱だけではなく中身の議論を喚起する使命を私なりに背負っていました。
野嵜:あの将来像は、西日本鉄道(以下、西鉄)にとっても長らくテーマとなっています。ただ、2025年春に西鉄が開業する「ONE FUKUOKA BLDG」(通称ワンビル)の開発コンセプトは「創造交差点」で、世界的なスタートアップ支援機関であるCICがイノベーションキャンパス「(仮称)CIC Fukuoka」を開設します。理念を何とか具現化しようとしてきた西鉄としての1つの答えであり、これからも考え続けるつもりです。
後藤:西鉄という会社はかなり変化した印象があります。私が福岡に転居した2003年頃は、多数の商業施設を運営されているため、良くも悪くも人を呼んで売上を立てるという商業の話が大半だったと思います。でも、今は会社の幅が広がったように感じます。
松岡:確実に変わりましたね。私は2020年から西鉄の社外取締役をしていますが、まちづくり会社だというメッセージがすごく強くなってきました。特にワンビルが完成したら、そこを拠点に発信力をさらに強化してほしいと願っています。
野嵜:そうですね、結局、最も大切なのは人だと思っています。ワンビルに関わる社員はあまり異動がなく、最後の完成まで見ることができた。しっかり人が育つ機会になったのではないでしょうか。
FDCが福岡と産業に果たす役割とは
後藤:MDCのように大きな旗を立てて、悩み考えながら仕事をしていくのはいいことだと捉えています。特に福岡市の髙島市長は打ち出しがうまく、ドンと旗を立ててからみんなで考えるスタイルで進めることもあります。
石丸さんは経済産業省出身ですね。2011年に設立した産学官民連携組織の「福岡地域戦略推進協議会」(通称FDC)で私が初代事務局長を務め、2015年に石丸さんが事務局長を引き継ぎ、組織を大きく発展させてくれました。そんな石丸さんから見て、旗を立ててから考える方法は産業を作る上では王道ですか。
石丸:そういう方法もあると思います。リーダーに人を惹きつける力があることは、産業には大きくプラスになります。先ほど「札仙広福」の話がありましたが、現在は他都市からアドバイスを求められ、福岡の成長を評価いただくことも増えてきました。FDCは、行政としっかり連携して取り組みを進めていく一方で、行政が掲げたものをそのまま全て受け入れるのではなく、自らの戦略などに照らし合わせて解釈し、やるべきことを考えて取り組みを進めてきました。
FDCとして産学官民で率直に話し合い、さまざまな提言をしていくことはもちろん、FDCが単独でやった事業がたくさんあります。FDCは行政や企業そのものではないことに価値があると考えています。他の都市を見ると、官民連携はできるけれど、それを俯瞰で見て、第三者として動ける機能がないことが課題となっていることも多い気がしています。FDCは行政区域も超えてストーリーを組み立てて動ける組織だと自負しています。
松岡:海外には公的なシンクタンクが抱える政策研究員のような人がアクティブに動いている例も珍しくありませんが、FDCはシンクタンクのような機能も兼ねつつ、さらに行政区域を超えて水平の拡張性もあるという点で、意義が大きいと感じます。
FDCも企業もアップデートしてきた
後藤:まちづくりにおいて、昔は個々の事業に目がいきがちでしたが、近年は大きなくくりで議論されるように全国的になりました。ただ、福岡は商業都市なので、産業政策についてはあまり議論されていなかったように思います。石丸さんは2014年にFDCのディレクターになり、どう感じましたか。
石丸:確かに産業政策的な目線はほぼないと感じました。後藤さんが作られたFDCは都市計画の色が強かったのですが、当時の福岡に必要だったのはマクロの目線だと考えていて、FDCのこのスキームを生かせば必ず成果を出せると思いました。そこで代替わりにあたって、リエゾン(橋渡し)の役割と産業目線をもっと入れようと考え、スタートアップや実証実験などいろいろなスキームを段階的に作ってきました。福岡市によってスタートアップ支援施設の「Fukuoka Growth Next」などが設置されたのは、象徴的な事例だと思います。
後藤:一方で、伝統的な企業、いわゆるトラディショナルカンパニーはアップデートしていると感じますか。
石丸:以前から、各社とも経営のポートフォリオを広げて、事業基盤の強化を図る動きが始まっていました。コロナ後は、自社に関連する分野から脱却して、よりリスクを取ってチャレンジしたり、DXやスタートアップとの連携を進めたり、新たな動きが出てきていると感じます。
後藤:まだできる余地があると。福岡の経済界では、七社会(1950年代、福岡にある7つの会社で構成された親睦団体。九州電力、西部ガス、西日本鉄道、福岡銀行、西日本シティ銀行、九電工、JR九州)の存在が大きい。そこの変化は感じますか。
松岡:あると思います。七社会のいくつかの会社の役員とお話する中で、コロナ禍も経て、人口減など社会課題に対して、真剣に次の事業の組み立てを考えられていると感じます。
一体感のある「九州」ならではの戦略を
後藤:この10年、「九州」というくくりで話をされることが増えたように思います。九州全体の経済界は変化していますか。
石丸:九州各地を訪れて首長と話をすると、最近は明らかに皆さんが福岡を見ています。九州全体では人口減少が加速する一方、福岡市の人口は減っていないので、福岡の存在感がますます大きくなっていきます。首長はいかに福岡と関係を作るか、人に来てもらうかを語られる。10年前はそのようなことはなく、社会経済情勢の変化の大きさを痛切に感じています。
松岡:だからこそ、今後は「九州に福岡があって良かった」と感じられるように、九州に対して何ができるか、福岡は戦略的にシフトした方がいいですね。
石丸:九州は住んでいる人たちが一体感を持って、まとまっています。これは東北をはじめ、日本のほかの地域にはない大きなメリットだとよくお聞きします。
「九州のために何ができるか」を考える
後藤:20年前の西鉄は、天神の会社という見られ方をしていたと思います。でも、今はもともとやっていた国際物流事業も表に出て、広がりが見えてきました。
野嵜:グローバルビジネスとローカルビジネスの循環を明確にし、ホテルをアジアに作って、東南アジアまで事業エリアという意識になっています。倉富会長が九州経済連合会(九経連)の会長になり、九州全体という発言が増えてきたことも大きいですね。
石丸:僕は倉富会長のもとで、九経連の部会長に加えて「TEAM FUKUOKA」の事務局もやらせていただいています。TEAM FUKUOKAは、国際金融機能誘致を目指す産学官の組織ですが、倉富さんは2020年の会長就任会見で「九州のためにTEAM FUKUOKAが何をできるか考えたい」とおっしゃって、ターニングポイントだったと思います。
「街の共用部」をつくり価値を生み出す
後藤:MDCでは、天神明治通り地区の建物や沿道の低層部に「街の共用部」を形成するとうたい、価値を生み出す機能を入れることを目指しています。現状はいかがですか。
(出所:天神明治通り街づくり協議会ウェブサイト)
野嵜:天神ビッグバンで完成したのは、MDCエリア内ではまだ福岡地所の「天神ビジネスセンター」だけで、この2~3年でいくつかのビルが建つと、まちの印象が変わってくると思います。MDCで街の共用部について議論したことで、西鉄関係で言いますと、ワンビルに隣接する天神ビジネスセンター の福岡地所と協議を行い、間にある因幡町通りに車を乗り入れさせない計画を実現させました。また、三菱地所と協議を行い、イムズ跡地のビルに車で行くためにワンビルの地下の車路を共用することにし、車の出入りが少ない安全な歩行空間の計画を実現させました。MDCで議論したことは少しずつ実現できていて、これからソフト面の機能を入れ込んでいく段階だと思います。
松岡:私は、都心に教育文化施設が極めて少ないことを危惧しています。中洲にある福岡アジア美術館と、2025年の春に完成する天神の福岡市民ホールくらいです。図書館もありません。郊外の東区千早にできた「なみきスクエア」は建築デザインも優れていますが、図書館だけでなく2階の自習室が学生たちにすごく人気です。気がついてみたら、天神にはそういうお金を使わなくても過ごせる公共的な場所がない。都心における公共性の欠落が続くと、若者の都心離れがますます進むのではと心配です。
後藤:確かにそうですね。
松岡:私がMDCと市に5年間提案し続けても実現できなかったことのうち最も残念に思っているのは、地区計画に定める屋外広場設置を屋内の公共スペースに置き換え可能にする仕組みを作れなかったことです。音楽ホールや文化発信拠点などの公共空間は事業採算が合いにくく、民間の自主性に任せても実現は難しい。また事業者にとって 1階は最も「稼ぐ」場所です。だから、活用が天候に左右される100m2の屋外広場を1階に作るよりも、中間階にもっと広い屋内公共空間を作ることが、「街の共用部」につながると思っていました。もっと早い段階で制度設計から参画できなかったことも原因し、結局実現できなかったことに忸怩たる思いです。
縦割りの行政といかに連携するか
後藤:野嵜さんはMDC事務局長で、西鉄の社員という立場でもあって、市と協議を重ねてきました。
野嵜:市との関係はやはりとても大切です。福岡市の担当部署の方には、とても協力していただきました。ただ、一方で、MDC立ち上げ当初は、再開発の具体的な動きもなかなか進みませんでしたので、MDCや西鉄が本気で再開発をする気があるのか、疑念もあったような気がします。
松岡:MDCが描くものを実現するためには、市とタッグを組むことが重要です。行政しかできない仕組みづくりと民間の実現力が両輪で回るのが理想的で、行政との関係はポイントになりますね。
後藤:当時、福岡市に関して大きな変化だと思ったのは、都心創生課ができたことです。そもそも 都市計画や建築行政は形態で物を評価するから、セットバックや広場という形の話を出られない。中身が何か、文化的か経済活動かなどを評価する素地がないんですよね。それを都心創生課というワンストップの窓口にして。市役所の部署間で調整するようにしたのは大きな前進だと思いました。その後、都心創生課は都心創生部に強化され、「天神ビッグバン」の博多版である「博多コネクティッド」なども推進しています。
石丸:基本的に行政は縦割りで、連携できる構造になっていません。でも、経済や企業誘致と都心再生は当然関連しますから、FDCでは複数の課と一緒に話すこともあります。加えて、「TEAM FUKUOKA」を立ち上げる際、僕は金融をきっかけに「アジアで最も創造的なビジネス街」を作りましょうと呼びかけました。FDCで「TEAM FUKUOKA」の戦略を描いたとき、金融街をつくるとは書かなかったんですね。国際金融機能誘致という文脈では国がコミットして、政財界の合意形成もできているから、金融をテコにしてまちづくりや事業創出をしていくという戦略を立てたわけです。先ほどのCICについても、グローバルネットワークが福岡に来るわけで、福岡県はCICと連携することで産業基盤を強化する明確なビジョンを持っている。こういう産業政策がどんどん起こっていくべきで、FDCが外で解釈してつなげることでうまく進むと感じています。
後藤:解釈するのはFDCをはじめ、企業や市の担当者かもしれません。
石丸:産学官民連携の価値は、主体がいろいろいること。多面的な目があることで、多様な解釈ができるのではないでしょうか。FDCとしては、起きている現象をこういう風にストーリーを立てたらこういうことができるとやっていくことで、そこで価値に気付く人や共感する人が出てきたり、別の視点から話す人が出てきたりと、いろんな目線や議論が広がっていくことが大事だと思っています。
松岡:やはり複眼的なメンバー構成と、組み合わせが多様にある柔軟さ、そしてトリガーを引く人が複数いる体制があることは大きいですね。
今後10年の鍵は「経済の多様化」「包摂性」
後藤:福岡・九州は根本的に豊かなエリアで、歴史が長く、農産物が豊富で、陽気な人柄で、悩みながらもいろいろなことをやり続ける文化があるという印象を私は持っています。日本の中でも特異なまちなので、素晴らしい先例を作りたいと思い、福岡にIターンしてきました。それから20年、まちはだいぶ変わったものの、できることはまだいっぱいあると感じています。皆さんはこれからどんなことをやっていきたいですか。
石丸:FDCは昨年、次期の福岡市基本計画(マスタープラン)策定に向けた提言を出しました。この10年、福岡市は都市の成長を基軸として、生活の質を上げるという好循環を目指してきましたが、これからは順番ではなく統合的にやるべきだと提言しました。10年前の福岡市は景気が悪いところからスタートして、マクロに経済は回ってきて、外資系企業の誘致や高度人材の呼び込み、都市の地位を上げていく取り組みを始めました。
一方で、不動産価格が上がり、将来的にジェントリフィケーション(地域に住む人々の階層が上がると同時に地域全体の質が向上すること。都市の富裕化現象により、賃料や土地代が上がり、もともと住んでいた人が転居しなければならないケースが問題視されている)の可能性もある。従来の住みよさを維持しつつ、高付加価値な人にとって住みよい環境を作るような統合的なまちづくりをしていかなければなりません。経済はベースとしてありつつ、もっと市民にフォーカスしたときにどうかという視点と、やってきたことを市民にフィードバックするという視点が大事だと指摘しました。向こう10年は、経済の多様化や包摂性をまちの戦略として掲げることがカギになると考えています。もう一つの軸は、九州の役割に関することです。TSMC(台湾積体電路製造。半導体の受託製造市場で世界トップシェアを誇る)が熊本に進出し、もはやオール九州でやらなければという機運が高まり、これまでで最も連携しやすい環境になっていると感じます。
後藤:知事と政令市長の関係も大事ですね。
石丸:その通りで、九経連会長の倉富さんとも話をして、県知事と政令市長が対話をする場も作っていくつもりです。
必要な機能をもとにシティセールスを行う
石丸:実は今、FDCでは天神に関わる地域分析をしているところです。天神や博多にどんな機能を誘導すべきかを具体的に示し、シティセールスに生かし、場合によっては政策にすべきと考えていて、今年度末には素案をまとめます。
髙島市長や財界の皆さんが海外でシティセールスをする際、今はビルのスペックを順番にプレゼンするだけでなく、「福岡市は何を目指していて、何をしたくて、あなたがこういう事業をされているなら、天神のここに来ればこんな人たちと出会って、こんなことができます」とプレゼンできるようなコンテンツを作っているんです。
後藤:それができれば、ビッグバンのセールスが変わりますね。
石丸:まずは官民連携でシティセールスをする座組みを作りました。次のステップとして、福岡市がリーシングの機能を持ち、「そういうニーズなら博多のあそこがいい」「これなら天神のあそこがいい」とつなげていくように、企業誘致とシティセールスとリーシングがパッケージになるのが理想的だと思っています。そのための材料をFDCで作り始めています。
野嵜:先日、髙島市長とベトナムへシティセールスに行き、確かにみんなビルのスペックをプレゼンしました。
石丸:福岡市がどのように対外的に発信していくかという戦略について、みんなで議論して作っていけばいいと思うんですよ。
情報を開き、まちの魅力を高める実験を
後藤:松岡さんは建築事務所を主宰し、不動産会社の社長でありながら、著書を出されたり、NPO法人福岡建築ファウンデーションを設立されたり、社会実験「OneKyushuミュージアム」を実施されたりと、社会へのエバンジェリスト(豊富な情報を分かりやすく伝える伝道者)のような立ち位置になっていますね。
松岡:福岡で生まれ育ち、福岡で仕事をしている人間として、福岡がこうあってほしいという思いをいろいろな形で発信したり行動したりすることが1つの使命かなと考えています。「アジアで最も創造的なビジネス街」がうたわれてきましたが、現実にTSMCが熊本に来て、台湾の銀行が福岡支店を作り、アジアと九州と福岡の間でエネルギーが胎動し始めました。ただ、私たちは福岡のまちがアジアの中でどんな特色があり、どんな魅力を目指して切磋琢磨するのか、つまりアジアの中でのポジションをもっとくっきり意識して、今後のまちづくりのドライブにしていく姿勢が必要な気がします。
長年「アジアのゲートウェイ」を掲げていますが、アジアの中で何を目指すのか。私は福岡の文化政策もその一環で考えると良いと思います。
後藤:まちに関する本を書かれて、気づいたことはありますか。
松岡:今の福岡のまちがあるのは、民間の人たちのおかげだと改めて思いました。渡邉與八郎さん(1866年生まれ、博多の呉服商の3代目)は私財を投げ打って道路を作り、九州大学の誘致には古河財閥も力を貸し、箱崎の人たちも大学に土地を提供するなど、福岡のまちをみんなで何とかしてきた時代が折々にあった。今、私たちはあぐらをかいちゃいけないし、もっと実験精神を持つべきだと思っています。
せっかく天神ビッグバンが進んでいるのに、市民にはそもそも天神ビッグバンが何なのか、よく知られていません。ビルのハードスペックが発表されても、どんなまちの実現に近づいているのかという具体的な情報はあまり公開されていない。ビッグバンを核として、もっと情報を開いた方がいいし、その方が市民の期待も膨らみ、いろいろな実験も仕掛けたくなる。そういうところで私はお役に立ちたいし、思うところをしっかり発言する市民の一人でありたいです。
後藤:福岡は素性がいいまちで、みんなが考え続けることが習慣化している。官主導のまちとは成り立ちが全く違うので、そこを伸ばしていけばいい方向へ進むと思っています。
石丸:僕は市民によるまちづくりをやってみたいと思っているんです。産学官民連携を掲げて、産学官連携の目途は立ったと思う。次のフェーズでは、市民が参画するまちづくりをやりたいし、やるべきだと思っています。
松岡:まさに福岡市の基本計画の委員会で、九州大学跡地の箱崎のまちづくりに市民を巻き込まなければいけないと申し上げました。
石丸:僕も箱崎キャンパス跡地利用協議会で、優先交渉権が決まって市民も入る会で同じように話しました。箱崎は福岡の中でも歴史を重ねていて、市民の人たちの営みもアクティビティもあり、それらが競争力になる可能性がある。ローカリズムを起点に強みを組み立てていくようなまちづくりをやるために、市民との対話が大事だと訴えました。
松岡:もっと情報を開いて、実験もトライアンドエラーもウェルカムなまちづくりを今こそと思います。

石丸:FDCとしては箱崎でいろいろな実験をしていますが、それは僕ら目線なんです。そうではなくて、住民発の実験が出てきて、相互の関係性を育んでいければと思っています。
松岡:そうじゃないと、スマートシティという名のもとに、ITやテクノロジーばかり羅列される懸念もあるなと思っていて。九大の跡地には百年の歴史やカラーがあり、その一角を担ってきた市民がいる。その存在をいかにフックにして次のまちを作るかがポイントだし、それをやれれば福岡はもっと注目される都市になります。
石丸:市民との関わりをコンセプトに掲げたらいいだろうな、そういうことをやるまちだと。
後藤:私が福岡に来たときの山崎広太郎市長は、それを標榜していました。時代が移り、企業もまちの形も変わってきて、今こそ新しい形で実現できる可能性が高まっているかもしれません。
面白い人を巻き込み、一緒にまちをつくる
後藤:野嵜さんはこれからどんなことをしていきたいですか。
野嵜:私のフィールドである天神では、ワンビルを皮切りに西鉄が関わる再開発案件もいくつかあり、今後10年ぐらい、たっぷり仕事があります。ただ、うちの建物も含めて、1番上がホテルで真ん中がオフィス、下が商業という同じような用途構成の開発が増えてきています。用途構成は同じでも、中身をどのように個性的で魅力的なものしていくかが、今後、ますます重要になってくると思います。そのためには、先ほど皆さんとお話したように、民間だけでは採算面で難しさがあるので行政のサポートも受けながら、まちの共用部のような機能をどう入れ込むかが課題だと感じています。目先の案件には間に合わないけれど、数年後を見据えて考えていくことは大事だと思っています。
もう一つ、同じ人たちでやっているとマンネリ化を避けられなくて、福岡には面白い人たちがたくさんいるので、何かをやりたい人に関わってもらい、新しい発想で取り組みの質をワンランク引き上げていければと思っています。今日皆さんのお話を聞いて、もっとやれるとモチベーションが上がりました。
石丸:福岡市のマスタープラン策定に向けたプロジェクトで、10年後の福岡を考える視点やマスタープランのあり方について語り合うイベントを開催しました。松岡さんや僕も登壇したのですが、ああいうイベントは関係者ばかりになりがちなのに、全然関係のない人たちがいっぱい来られたんです。
松岡:立ち見も出るほど大盛況でしたね。
石丸:あのような機会をたくさん作るといいのではないでしょうか。
後藤:そういう場を作り続けることが大切ですね。
松岡:別のまちづくりイベントも参加者が多くて、福岡の皆さんはいろいろなことを知りたがっているんだなと実感しました。
後藤:やはり福岡の人は福岡のまちが大好きで、関わりたい気持ちがあるのでしょう。そんな福岡だからこそ、みんなでいいまちにしていきましょう。
#プロフィール
松岡 恭子 まつおか きょうこ
株式会社スピングラス・アーキテクツ 代表取締役
福岡市生まれ。九州大学工学部建築学科卒業、東京都立大学大学院修士課程修了、コロンビア大学大学院修士課程修了。1992年NYにマツオカ・ワン・アーキテクツを設立し、アメリカ、日本、台湾で活動。2000年より福岡を拠点とする。さまざまな建築物やプロダクト、橋梁・公園など大規模な土木構造物のデザインも手掛け、国内外の大学でデザイン教育・地域づくりにも従事。株式会社大央代表取締役社長、西日本鉄道取締役監査等委員。2020 年に発案した社会実験「One Kyushu ミュージアム」などを通して、一般社団法人都心空間交流デザイン代表理事として、これからの都市の公共性を探求している。
野嵜 武秀 のざき たけひで
西日本鉄道株式会社 執行役員 / 天神開発本部長
福岡県生まれ。九州大学法学部を卒業後、1989年西日本鉄道に入社。2010年都市開発事業本部企画開発部長、12年同本部商業レジャー事業部長、14年同本部SC事業部長。17年同本部副本部長兼企画開発部長、同副本部長兼ビル事業部長を経て、19年グループ事業部長。2024年より現職。09~12年に天神明治通り街づくり協議会事務局長、2024年よりWe Love 天神協議会事務局長を務める。
石丸 修平 いしまる しゅうへい
福岡地域戦略推進協議会 事務局長
福岡県生まれ。経済産業省、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)等を経て、2015年4月より福岡地域戦略推進協議会(FDC)事務局長。アビスパ福岡アドバイザリーボード(経営諮問委員会)委員長、九州大学科学技術イノベーション政策教育研究センター(CSTIPS)客員教授、九州大学地域政策デザインスクール理事、九州経済連合会規制改革推進部会長等を歴任。中央省庁や地方自治体の委員など公職も多数務める。著書に『超成長都市「福岡」の秘密 世界が注目するイノベーションの仕組み』(日本経済新聞出版)。
年 | 地域のできごと | 後藤/Region Worksのやったこと |
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2003 | 「新・福岡都心構想」 | 福岡に転居 福岡・アジア都市研究所に出向 「新・福岡都心構想」検討準備会の事務局を務める |
2004 | 福岡REIT投資法人 設立 天神・渡辺通まちづくり研究会「渡辺通り大改造への提言」 | 福岡REIT投資法人設立目論見書の地域分析を担当 天神・渡辺通まちづくり研究会の事務局を務める |
2005 | まちづくり連続フォーラム 福岡県西方沖地震 We Love 天神協議会 設立 | 「We Love天神」協議会(仮称)準備会の事務局を務める まちづくり連続フォーラムの事務局を務める |
2006 | We Love 天神協議会「まちづくりガイドライン」 | 福岡新都心開発(株)入社 須崎地区事業化検討委員会の事務局を務める We Love 天神協議会 幹事に就任 |
2007 | 天神地区都市機能更新研究会「環の街 天神~天神明治通り地区のグランドデザイン」 | (同)福岡アーバンラボラトリー創業 天神地区都市機能更新研究会の事務局を務める |
2008 | 天神明治通り街づくり協議会 設立 天神2丁目北ブロック街づくり協議会 設立 福岡市 都心部機能更新誘導方策 | 天神明治通り街づくり協議会の統括マネージャーに就任 天神2丁目北ブロック街づくり協議会の事務局を務める |
2009 | 福岡都市フォーラム実行委員会「Fukuoka Urban Forum」開催 天神明治通り街づくり協議会「グランドデザイン」 | 福岡都市フォーラムの事務局を務め、国際都市開発協会(INTA)を招聘 |
2010 | 一般社団法人We Love 天神 設立 国際知識経済都市会議実行委員会、「地域戦略フォーラム」開催 髙島宗一郎氏が福岡市長就任 | 一般社団法人We Love 天神の理事に就任 国際知識経済都市会議実行委員会の事務局を務め、国際地域ベンチマーク協議会(IRBC)を招聘 |
2011 | 福岡地域戦略推進協議会 設立 天神明治通り街づくり協議会「グランドデザイン実現の手引書」 福岡アジア都市研究所 調査報告書「Fukuoka Growth」刊行 | 福岡地域戦略推進協議会の事務局長に就任 福岡アジア都市研究所 情報戦略室長に就任 |
2012 | 福岡市「スタートアップ都市宣言」 福岡地域戦略推進協議会「地域戦略」 福岡観光コンベンションビューロー MICE部門(Meeting Place Fukuoka)設置 | 福岡地域戦略推進協議会都市再生部会の事務局を務める |
2013 | 福岡市天神明治通り地区地区計画(方針)都市計画決定 国家戦略特区 指定(福岡市と福岡地域戦略推進協議会の共同提案) 福岡地域戦略推進協議会都市再生部会「都心再生戦略」 | |
2014 | 天神明治通り街づくり協議会「街づくり協議の仕組み」を「地域まちづくり計画」として福岡市に登録 航空法高さ制限の特例承認(1回目) 福岡地域戦略推進協議会都市再生部会「福岡市水上公園活用方策に関する民間発案」 | 天神明治通り街づくり協議会の統括マネージャーを退任 リージョンワークス(同)創業 |
2015 | 福岡市天神ビッグバン 開始 天一南地区整備計画 都市計画決定 日本都市計画学会賞石川賞「福岡天神におけるまちづくりガイドラインに基づくエリアマネジメント」(We Love 天神協議会、一般社団法人We Love 天神、西日本鉄道株式会社、出口敦、後藤太一) | 福岡地域戦略推進協議会の事務局長を退任 日本都市計画学会賞石川賞「福岡天神におけるまちづくりガイドラインに基づくエリアマネジメント」 |
2016 | 福岡市水上公園リニューアル開業 福岡市「天神ビッグバンボーナス」を創設 | |
2017 | 航空法高さ制限の特例承認(2回目) スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」開業 | We Love 天神協議会 幹事を退任 一般社団法人We Love 天神の理事を退任 |
2018 | ||
2019 | 天二南(明治通り沿道)地区整備計画 都市計画決定 | |
2020 | 天一北(14番街区)地区整備計画 都市計画決定 | |
2021 | 天神ビジネスセンター開業 マリンメッセ福岡B館(第二期展示場)開業 福岡ビル街区再開発着工 | |
2022 | ||
2023 | 福岡大名ガーデンシティ開業 | |
2024 | ||
2025 | 旧福岡ビル街区 ONE FUKUOKA BLDG. 開業予定 |